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金椛国春秋シリーズ感想・前半

金椛国春秋シリーズ(作者:篠原悠希)『後宮に星は宿る』、『後宮に月は満ちる』、『後宮に日輪は蝕す』まで読み終えたので記憶が新しい内に感想を書きたいと思います。ついでに本の紹介もできればいいな。 偶然『後宮に星は宿る』の漫画の試し読みをしたところ絵も綺麗で設定もしっかりしていてストーリーも面白い!とあっという間に読み終えていました。話の続きが気になりすぐに原作小説も読み始めた次第です。

(以下、ストーリーの核心に触れないようにしますが若干のネタバレはあります)

 

金椛国春秋シリーズはどんな話?

 

古代中国をモデルにした架空の国・金椛の後宮を舞台にしたストーリーです。と言っても皇帝と皇妃のラブストーリーという話ではなく主人公の星遊圭は男の子。金椛の前の王朝がいずれも外戚のせいで三代までしか続かなかったことにより皇后の親族は全て死ななければならないという族滅法が定められています。現王朝二代目皇帝が突然崩御し主人公の星遊圭の叔母が次の皇帝の皇后に選ばれた事により星家は一族郎党皆殺しになります。遊圭は使用人の胡娘や以前助けた村娘の明明により逃げ延びることができました。そして正体を隠し生き延びるために明明に連れられ後宮に入り女装し宮官の女童の遊遊として働く事になります。 少年の捜索はで都から抜け出すことは不可能!しかし後宮で男だとバレても一貫の終わり!命懸けの日々ですが遊圭君はまだまだ10代なかばの少年、スパイ訓練を受けていたわけでもないし病弱で引きこもりがちだったので世間知らずでもある、うっかり自分の教養高いところと子供の頃から病弱であるため薬学に詳しい事をバラしてしまい皇帝の腹心である宦官の玄月に注目されてしまう。この出会いが遊圭の命を助け、同時に後宮の陰謀に巻き込まれてしまうきっかけとなってしまう。この後宮での陰謀が一旦解決し医者として成長した主人公が後宮から出ることができたのがシリーズ三番目の『後宮に日輪は蝕す』のラスト。多分物語の区切り目ですね。私もそこまで読み終えて、感想書くなら今でしょ!となりました。しかし続きが気になる…これ書き終わったらすぐ続刊の『幻宮は漠野に誘う』を読むつもりです。

 

華やかな後宮での話ですが複雑な政治状況権力闘争、主人公が常に命の危険にさらされているためハラハラさせられっぱなし、難しい言葉や複雑な設定が使われているのですが描写が上手いためするすると読めてしまいます。あとキャラクターの心理描写も上手いです。欠点だけの人物もいないし美点だけの人物もいない、親切心の裏には打算があったり悪事の裏に情があったりします。個人的に好きなのが皇帝の描写、仁君とも明君とも言えないしかし暴君や暗君でもない。無能なわけではないが机仕事や人の心を推し量るのが苦手、血気盛んで自分は将軍の方が向いてると言い出しちゃう、けれども大切な人を守ろうと必死だったり、理想の君主として務まるかと悩んだり年相応の青年皇帝という危なっかしいながらも応援したくなる人です。 主人公の遊圭君も魅力的です。仁に厚く、自分の正体がバレる危険を冒しながら自分に親切にしてくれた人物を助けようとしたり、拷問を受けたり辛い展開でも毅然とした態度で立ち向かったりととてもカッコいい少年ですが、まだまだ未熟なところもたくさんあります。賢いけれど策を弄するには長けておらずカッとなってボロを出してしまったり嫉妬したり偏見に満ちた発言をしてしまったり感情がコントロールできず身近な人に八つ当たりしてしまったり……しかし完璧でないからこそ成長を見守りたくなる、架空の人物ではなく実在の人物のように感じ親近感が湧く。いや〜遊圭君には幸せになってほしい。

そしてヒロイン?の明明ちゃん。生活に窮して饅頭を盗み追われていたところを主人公に助けられた少女。助けられた時はツンツンしていたけれど数日後に立場が逆転し追われる身となった主人公を保護してからの彼女は本当に優しいです。捕まったら自分の身も危ないのに常に主人公のサポートをしとんでもない危険に巻き込まれても主人公を責めることはしません。中国では一滴の水の恩にも湧き出る泉のような大きさで報いるべしとの格言があるそうですがまさにそんな感じです。主人公に協力することによって彼女も文字を学べたり医療の勉強が出来たりと報いられているのですが常に主人公の手助けをし何度も危険にな目に遭っても絶対的に主人公の味方でいてくれるのが尊すぎる……遊圭君の療母の胡娘も献身的に主人公に尽くしていますが胡娘のような母性からくる庇護欲というわけではなくかと言って恩返しのためだけに優しくしているのではなく「放っておけないから」みたいな感じ、所謂巨大感情はないけれどそのさりげなさが尊い運命共同体…となるオタク。 特別際立った才能があるわけでない平凡な少女なので下手すると足を引っ張る存在になりそうなところを主人公の相棒としてキャラ立ちした作者の技量もすごい。 『後宮に日輪は蝕す』で「つらかったでしょう。ひとりにしてごめんなさい」と遊圭君に縋りついて泣く姿に心臓をギューと掴まれたようになり泣きそうになりました。明明幸せになれ……

 

このシリーズは魅力的なキャラクターがたくさんでできれば全員紹介したいところですが多分私の力量的に無理なのであと一人物語の中の重要人物を。(他のキャラクターに関しては是非本編で直接確かめてください!) 宦官の玄月です。中華風後宮物ですからね、宦官キャラは確実に出ます。玄月は名門出身で文武両道の天才児だったのですが親戚の政争の巻き込まれ死罪を命じられそうになります、しかし玄月の父親は当時の東宮つまり現皇帝の側近だったため減刑され親子ともども宮刑の憂き目に遭います。それだけではなく容姿端麗だったため上官の宦官や女官に弄ばれたという辛い過去を持つ人物。皇帝の腹心であり将来を約束された地位についている才気煥発な優男で女官達にモテて自分の財産を使い若い宦官に教育を施す優しさを持つ人物であると同時に底には鬱屈としたものを持ち、青臭い正義感を持ち女装をしているものの男子の身を保ったままの遊圭には薄暗い感情を向けます。 先程言った通り彼が遊圭の正体に勘づいたことにより遊圭は一気に陰謀渦巻く世界に引き込まれます、弱みを握り計算高く自分を利用する玄月を遊圭は恨みますが同時に玄月は遊圭を導き育ててもいるのです。この二人の複雑な関係もストーリーの肝ですね。 『後宮に星は宿る』で彼が恩人を助ける為に皇后の前で跪き泣きながら憐れみを乞うた後に外に出てつるりと顔を拭い苦笑して「使いどころによっては涙が武器になるのは、女だけの特権ではないと、知っていたか」と囁くシーンでやられました。鬱屈と誇りを抱える二面性のある美青年……好きになる。 幸せになってくれ…と言いたいけれど彼の幸せってなんだろう、そう考え込んでしまう底の深い闇を抱える人物です。

他にもこの作品の特徴としては宮廷の制度、宦官の制度、そして東洋医学についてかなり緻密な設定と描写があります。しかし煩雑な設定を押し付けられるような感覚はなく、丁寧かつ分かり易く説明されるので後宮や漢方に詳しく無くても読みやすいと思います。 まだ3代目の王朝で皇帝も若く未熟、表向きの平穏を保っていてもいつ覆されるか分からない。後宮から出ても陰謀と策略渦巻く世界はまだ待っているでしょう、遊圭はまだまだ過酷な道を進むことになりそうですが彼の旅路を最後まで見届けたいです。

という事で続きを読みに行きます!!!